2024/07/10
相続登記の申請義務化
相続した土地・建物の登記はお済みでしょうか。不動産登記法の改正により、相続登記が義務化されました。改正法は遡及して適用されるため、今後不動産を相続される方だけでなく、過去に不動産を相続して現時点で名義変更をしていない方も、相続登記をしなければなりません。今回は相続登記の申請義務化について、お話しさせていただきます。
1.相続登記の義務化の背景
所有者が亡くなったのに相続登記がされないことによって、登記簿を見ても所有者が分からない「所有者不明土地」が全国で増加し、周辺の環境悪化や民間取引・公共事業の阻害が生ずるなど、社会問題となっています。
この問題を解決するため、令和3年に法律が改正され、これまで任意だった相続登記が義務化されることになりました。
2.制度の概要
◆相続登記の義務化は令和6年4月1日開始
ただし、令和6年4月1日より前に相続した不動産も、相続登記がされていないものは、義務化の対象になります。
◆不動産を相続したことを知ったときから3年以内に登記
(1)相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
(2)遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
◆過去の相続分も義務化の対象
令和6年4月1日より前に相続した不動産で、相続登記がされていないものについては、令和9年3月31日までに相続登記をしていただく必要があります。
3.相続登記の義務化と罰則
正当な理由(※)なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。
(※)相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなど。
4.相続登記の申請義務化 対応フローチャート
〈出典:法務省のサイト「相続登記の申請義務化特設ページ」〉
2024/06/17
災害に関する主な税務上の取扱い
近年、日本各地において災害が頻繁に起きており、今年も元日から能登半島で地震がおきています。これからの季節、豪雨被害なども予想されるので今回は災害に関して法人や個人が支出する費用のうち、支援に関するものに対する税務上の取り扱い等についてお話しさせていただきます。
1.従業員等に支給する災害見舞金品
法人が、災害により被害を受けた従業員等又はその親族等に対して一定の基準※に従って支給する災害見舞金品は、福利厚生費として損金の額に算入されます。また、法人が、自己の従業員等と同等の事情にある専属下請先の従業員等又はその親族等に対して一定の基準に従って支給する災害見舞金品についても同様に損金の額に算入されます。なお、事業を営む個人においても同様に取り扱われます。
既に退職した従業員又は採用内定者に対する災害見舞金品であっても、被災した自己の従業員等と同一の基準に従って支給するものは、福利厚生費として損金の額に算入されます。
ちなみに災害見舞金を支出した場合に、取引先から領収書の発行を求め難い事情にあることも考えられますが、このようなときには、帳簿書類に支出先の所在地、名称、支出年月日を記録しておくことが必要となります。
※一定の基準とは、①被災した全従業員に対して被災した程度に応じて支給されるものであるなど、各被災者に対する支給が合理的な基準によっていること、②その金額もその支給を受ける者の社会的地位等に照らし被災に対する見舞金として社会通念上相当であることが必要です。
2.災害見舞金に充てるために同業団体等へ拠出する分担金等
法人が、所属する同業者団体等の構成員の有する事業用資産について災害により損失が生じた場合に、その損失の補填を目的とする構成員相互の扶助等に係る規約等に基づき合理的な基準に従って同業者団体等から賦課され、拠出する分担金等は、その支出する事業年度の損金の額に算入されます。なお、事業を営む個人においても同様となります。
3.取引先に対する災害見舞金等
法人が、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程においてその取引先に対して行った災害見舞金の支出、事業用資産の供与等のために要した費用は交際費等に該当しないものとして損金の額に算入されます。
4.取引先に対する売掛金等の免除等
法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金、貸付金等の債権を免除する場合には、その免除することによる損失は寄附金又は交際費等以外の費用として損金の額に算入されます。また、既契約のリース料、貸付利息、割賦代金の減免を行う場合及び災害発生後の取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様に取り扱われます。
5.取引先に対する低利又は無利息による融資
法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として低利又は無利息による融資を行った場合における通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額は、寄附金に該当しないものとされます。
6.自社製品等の被災者に対する提供
法人が、不特定又は多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金又は交際費等に該当しないもの(広告宣伝費に準ずるもの)として損金の額に算入されます。
7.災害対策本部等に対しての義援金
法人が被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して支払った義援金は「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。
個人の場合は「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。なお、当該義援金は地方公共団体に対する寄附金として個人住民税の寄附金控除の対象となり、原則としてふるさと納税に該当します。
2024/05/15
賃上げ促進税制の強化
賃上げ促進税制とは、企業者等が賃上げを実施した場合に、賃上げ額の一部を法人税などから税額控除できる制度です。令和6年度税制改正により、最大税額控除率が、大企業・中堅企業は35%、中小企業は45%にアップしました(改正前は大企業・中堅企業は30%、中小企業は40%)。今回は賃上げ促進税制の主な改正点についてお話しします。
1.適用期限を3年延長
賃上げ促進税制の適用期限を従来の2年間から3年間に延長[令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は令和7年から令和9年までの各年)が対象]
2.中堅企業を対象に、新たに賃上げ促進税制の枠を創設
青色申告書を提出する法人で常時使用する従業員の数が2,000人以下であるものを対象とする制度が創設されました。
3.適用要件の見直し
〈全企業向け〉
・現行の賃上げ要件の税額控除率の引き下げ(3%賃上げで控除率15%から10%、4%賃上げで控除率25%から15%に引き下げ)
・さらに高い賃上げ要件を創設(5%賃上げ、7%賃上げ)
〈全企業向け・中小企業向け〉
・教育訓練費の上乗せ要件の緩和
・仕事と子育ての両立支援等に取り組む企業(「プラチナくるみん認定」又は「プラチナえるぼし認定」)に5%の上乗せ措置を創設
〈出典:経済産業省公式サイト〉
4.中小企業向けに5年間の繰越控除制度が創設
中小企業は、要件を満たす賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額の5年間の繰越しが可能となりました。この制度により、赤字企業でも賃上げ促進税制が活用できるようになります。
2024/04/10
社長や取締役などの法人税法上の役員は賞与をもらうことができないと思われている方もいらっしゃるので、今回は役員に賞与を支給し、これを法人税の損金として扱うことができる事前確定届出給与についてお話しします。
1.損金として認められる役員への給与
法人税法上、法人の役員に対して支給する給与について損金として算入できるものは、原則として以下の3つのものとされています。
種類 |
内容 |
定期同額給与 |
・基本的に1ヶ月以下の一定期間ごとに支給される同額の給与 ・事業年度の途中において支給金額等の改定をする場合には、一定の要件を満たさないと定期同額給与と認められない |
事前確定届出給与 |
・所定の時期に、誰に、いくら支給するか等を記載した所定の届出書を所定の期限内に税務署に提出し、届出書に記載したとおりの金額を所定の時期に支給した場合に限り損金として認められる |
業績連動給与 |
・利益や株価などの一定の指標を基礎として算定する連動型の給与で一定の要件を満たすもの |
なお、この3つのパターンに基づく支給であっても、それが不相当に高額な部分の金額であると認められる場合には損金への算入は認められないことになるので注意が必要です。
2.事前確定届出給与の留意点
事前確定届出給与を利用するときに留意する点は次の2つです。
(1)期限内に届出書を提出すること
①原則として次の(イ)と(ロ)のうちいずれか早い日までに提出すること。
(イ) 株主総会等の決議によりその定めをした場合におけるその決議をした日(その決議をした日が職務の執行を開始する日後である場合にはその開始する日)から1ヶ月を経過する日
(ロ) その会計期間開始の日から4ヶ月(確定申告書の提出期限の延長の特例に係る税務署長の指定を受けている法人のうち、一定の通算法人については5ヶ月、それ以外の法人についてはその指定に係る月数に3を加えた月数)を経過する日
②臨時改定事由が生じたことにより事前確定届出給与に関する定めをした場合
臨時改定事由が生じたことによりその臨時改定事由に係る役員の職務について事前確定届出給与に関する定めをした場合には次に掲げる日のうちいずれか遅い日までに提出すること。
(イ) 上記①の(イ)または(ロ)のうちいずれか早い日
(ロ) 臨時改定事由が生じた日から1ヶ月を経過する日
③事前確定届出給与に関する定めを変更する場合
既に上記①または②の届出をしている法人がその定めの内容を変更する場合において、その変更が次に掲げる事由に基因するときはその変更後の定めの届出の届出期限はそれぞれ次に定める日となります。
(イ) 臨時改定事由
その事由が生じた日から1ヶ月を経過する日
(ロ) 業績悪化改定事由(給与の支給額を減額し、または交付する株式もしくは新株予約権の数を減少させる場合に限る)
その内容の変更に関する株主総会等の決議をした日から1ヶ月を経過する日(変更前の直前の届出に係る定めに基づく給与の支給の日がその1ヶ月を経過する日前にある場合には、その支給の日の前日)
④やむを得ない事情がある場合
上記①から③までの届出期限までに届出がなかった場合においても、その届出がなかったことについてやむを得ない事情があると認められるときは、それらの届出期限までに届出があったものとされます。
(2)届出書に記載したとおりに支給すること
届出書に記載したとおりに、記載した支給日に支給をしないと損金に算入することができません。たとえば、届出書には100万円支給すると書いてあるのに、実際支給したのは70万円であった場合にはその支給した70万円は全額損金不算入となります。
2024/03/28
令和6年度の税制改正では、所得税と住民税の定額減税が決まりました。
定額減税の概要と給与支払者の場合の定額減税事務についてご案内します。
Ⅰ.定額減税の概要
対象者 居住者で令和6年分の合計所得金額が1,805万円以下である人
減税額 本人、同一生計配偶者及び扶養親族(居住者のみ、以下、扶養親族等)
1人につき、所得税3万円、個人住民税1万円
給与の支払者は、以下の二つの事務を行うことになります。
①令和6年6月1日以後に払う給与等に対する源泉徴収税額からその時点の定額減税額を控除する事務
(以下「月次減税事務」)
②年末調整の際、年末調整時点の定額減税額に基づき精算を行う事務
Ⅲ.月次減税事務の手順
月次減税事務は次の手順で行います。
①控除対象者の確認
令和6年6月1日現在、勤務している人のうち、給与等の源泉徴収において源泉徴収税額表の甲欄が適用される
居住者の人(以下「基準日在職者」)を選び出します。
②各人控除実績簿の作成
基準日在職者の各人別の月次減税額と各月の控除額等を管理することになります。国税庁HPに「各人別控除実
績簿」が掲載されているのでご活用ください。
③月次減税額の計算
④給与支払時の控除
[計算例]
(出典:国税庁HP)
⑤控除後の事務
給与支払明細書への控除額の表示:適宜の箇所に「定額減税額××円」などと表示