2020/03/10
令和2年分からの年末調整に影響する税制改正
平成30年度税制改正大綱により2020年1月から源泉所得税の改正が行われており、これにより2020年度の年末調整において、一部手続きに影響がでることとなりました。確定申告の時期に年末調整の話は早いような気もしますが、説明させていただきます。
1.給与所得控除の引き下げ
給与所得控除の額が、2020年度より一律10万円引き下げられることになりました。
また、控除の要件である「給与等の収入金額」の上限が「年収1,000万円」から「年収850万円」となります。同時に給与所得控除の上限も220万円から195万円と変更されるため、年収850万円を超えると10万円以上の引き下げとなります。
給与等の収入金額(年収) |
給与所得控除額 |
|
2017年度~2019年度分まで |
2020年度分以降 |
|
162.5万円以下 |
65万円 |
55万円 |
162.5万円超180万円以下 |
収入金額×40% |
収入金額×40%-10万円 |
180万円超360万円以下 |
収入金額×30%+18万円 |
収入金額×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 |
収入金額×20%+54万円 |
収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 |
収入金額×10%+120万円 |
収入金額×10%+110万円 |
850万円超1000万円以下 |
195万円(上限) |
|
1000万円超 |
220万円(上限) |
2.基礎控除の引き上げ
これまでは基礎控除に対して適用要件がなく、一律38万円が控除されていました。しかし今回の改正に伴い、下表のように基礎控除にも適用要件が設定された上で、基礎控除の額が最大48万円に引き上げられることになりました。これに伴い住民税の基礎控除の額にも変更が生じることとなります。
合計所得金額 |
基礎控除の額 |
|
2019年度分 |
2020年度以降分 |
|
2,400万円以下 |
38万円(33万円) |
48万円(43万円) |
2,400万円超2,450万円以下 |
32万円(29万円) |
|
2,450万円超2,500万円以下 |
16万円(15万円) |
|
2,500万円超 |
― |
※()内は、住民税の計算で使用される基礎控除の額
3.所得税額調整控除
所得税額調整控除とは、税制改正で年収850万円を超えると所得税が増税になることを受け、介護や子育て世代の負担が増えないように新設されたものです。
制度内容としては、給与等の収入金額が850万円を超える人で、次のいずれかに該当する場合には、給与等の収入金額(給与等の収入金額が1,000万円を超える場合には1,000万円)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額をその年分の給与所得の金額から控除するというものです。
①特別障害者に該当するもの
②年齢23歳未満の扶養親族を有するもの
③特別障害者である同一生計配偶者又は扶養親族を有するもの
4.まとめ
今回の税制改正では、給与所得控除額の引き下げと基礎控除額の引き上げによる影響は給与等の収入金額(年収)が850万円以下の人であれば、給与所得控除額と基礎控除額の増減がプラスマイナス0になるので所得税に影響しませんが、給与等の収入金額(年収)が850万円超の人になると実質的に増税になります。
2020/02/10
❖2020年税制改正で「NISA(ニーサ)」が拡充されました!
2019年12月、政府与党は「2020年度税制改正大綱」を決定しました。今回の改正では少額投資非課税制度「NISA(ニーサ)」が見直されています。
今月の事務所通信では、この「NISA(ニーサ)」についてご紹介します。
●「NISA(ニーサ)」とは?
「NISA(少額投資非課税制度)」とは、2014年1月にスタートした、個人投資家のための税制優遇制度です。通常、株式や投資信託などから得られた配当や譲渡益は、所得税や住民税の課税対象となります。NISAは、毎年一定の新規購入分を対象に、その配当や譲渡益を最長5年間、非課税にする制度です。
また、2016年4月からはこれまでのNISAに加え「ジュニアNISA」、さらに2018年1月からは、「つみたてNISA」という新たな制度が開始されました。「NISA」と「つみたてNISA」は選択制で、同じ年に二つの制度を利用することはできません。
●改正の概要について
❶ NISA(新NISAの創設)
非課税期間5年間の「NISA」については、リスクの低い投資商品に限定した積立枠(1階)と、従来通り上場株式などにも投資できる枠を設けた2階建ての制度に見直したうえで、口座開設可能期間を5年延長します。投資対象商品については、1階部分は「つみたてNISA」と同様とし、2階部分は、現行の「NISA」から安定的な資産形成に不向きな一部商品を除くこととします。
❷ つみたてNISA
非課税期間20年間の現行の「つみたてNISA」については、口座開設可能期間を5年延長します。
❸ ジュニアNISA
「ジュニアNISA」については延長せずに、新規の口座開設を2023年までとします。
(出典:金融庁「令和2年度税制改正について」より)
◆NISAのデメリットについて
NISAには、運用益に係る所得税や住民税が非課税になるというメリットがありますが、投資商品である以上デメリットもあります。運用には注意する点もあります。
① 損益通算できない(ほかの一般口座や特定口座で発生した損益と通算することはできません。)
② 繰越控除できない(ほかの一般口座や特定口座と違い、確定申告による損失繰越の制度が適用されません。)
③ 元本割れの可能性がある
2020/01/14
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
さて、2020年度の税制改正大綱が公表されました。今回の改正では、さまざまな改正案が提出されていますが、その中でも身近な改正案をご紹介します。
◆2020年度税制改正大綱
Ⅰ.オープンイノベーション促進税制の創設
アベノミクスの成果により増加してきた現預金等を活用して、イノベーションの担い手となるスタートアップ企業への新たな資金の供給を促進し成長に繋げていくため、国内の事業会社などから、一定のベンチャー企業に対する出資について、25%の所得控除を講ずるというものです。
1.適用期限:令和3年度末まで
2.出資を行う企業要件:国内事業会社又は国内事業会社によるベンチャーキャピタル(事業会社又はその子会社が運営し、持ち分の過半数以上を有するファンド等)
3.行為要件:
①1件当たり1億円以上の大規模出資。中小企業からの出資は1,000万円以上
②株主間の株式売買ではなく、ベンチャー企業に新たに資金が供給される出資
③一定の控除上限
④一定期間(5年間)の株式保有
※5年間以内に株式を譲渡した場合や配当の支払いを受けた場合等には、その事由に応じた金額を取崩し益 金算入することとなります。
4.出資を受けるベンチャー企業要件:
①新規性・成長性のある設立後10年未満の未上場ベンチャー企業(新規設立を除く)
②出資を行う企業又は他の企業グループに属さないベンチャー企業
5.報告要件:事業者は経済産業省に対し、1年間の出資案件に関して、「各出資が事業会社、ベンチャー企業双方の事業革新に有効であり、制度を濫用するものでないこと」を決算期にまとめて報告。
Ⅱ.未婚のひとり親に対する措置と寡婦(夫)控除の見直し
ひとり親家庭に対して公平な税制を実践する観点から、「婚姻歴の有無による差」と「ひとり親の男女差」を解消するために次の措置が講じられます。
①未婚のひとり親が生計を一にする子を有し、かつ未婚のひとり親の年間所得が500万円以下である場合には、寡婦(夫)控除を適用する。
※住民票により事実婚であることが明記されている場合は適用対象外となります。
②寡婦(夫)控除の適用要件について、今までは男性だけであった年間所得金額500万円の所得制限を女性にも設ける。
③子ありの寡夫の控除額(所得税27万円)について、子ありの寡婦と同額(35万円)にする。
Ⅲ.所有者不明土地等に係る固定資産税の課題への対応
現在、固定資産税を納める義務があるのは登記簿上の所有者ですが、所有者が死亡した場合に相続登記されないことで次の所有者が特定できずに所有者が不明の土地が増えており、固定資産税を払わずに土地を使える不公平な状況に歯止めをかけることを狙い制度改正が行われます。
①市町村が、所有者不明の土地等について、戸籍調査などの一定の調査を尽くしてもなおその所有者が一人も明らかとならない場合には、土地の使用者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録し、その使用者に固定資産税を課することができるようにする。
②登記簿等に所有者として登記がされている個人が死亡している場合、市町村長は、その土地等を現に所有している者に対して固定資産税の賦課徴収に必要な事項を申告させることができることとする。
2019/12/10
❖軽減税率制度導入後の申告に向けた区分経理の留意点について
令和元年10月1日から、消費税の軽減税率制度が実施されました。国税庁のHPには、制度実施後における消費税申告書の作成にあたって、事業者の皆様に留意いただきたい事項などをまとめた資料が掲載されています。今回の事務所通信では、その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
●誤った税率に基づいて税込対価を計算したレシートを受領した場合
消費税の仕入税額控除の適用を受けるためには、取引の事実に基づく一定の事項が記載された「区分記載請求書等」の保存が必要です。例えば、誤った税率に基づいて税込対価を計算したレシートを受領した場合には、取引先に対して「取引の事実」に基づくレシートの再交付を依頼するといった対応が必要となります。
(出典:国税庁「事業者の皆様へ~区分経理から消費税申告書の作成まで~」より)
●必要事項が記載されていない請求書等を受領した場合
消費税の仕入税額控除の適用を受けるためには、一定の事項が記載された帳簿及び「区分記載請求書等」の保存が必要です。区分経理は必要事項が記載された請求書等を基に行うこととなりますので、必要事項が記載されていない請求書等を受領した場合には、①取引相手に必要事項が記載された請求書等の再交付を依頼する、又は ②取引の事実に基づいて「軽減税率の対象品目である旨」と「税率ごとに区分して合計した対価の額(税込)」を追記するといった対応が必要となります。
そのため、請求書等を受領したタイミングで内容を確認しておくことが合理的です。
(出典:国税庁「事業者の皆様へ~区分経理から消費税申告書の作成まで~」より)
●即時充当によるキャッシュレス・消費者還元に係る消費税の仕入税額控除の考え方
コンビニ等が行っている即時充当(即時に購買金額にポイント等相当額を充当する方法)によるキャッシュレス・消費者還元は、商品対価の合計額が変わるものではありません。消費税の課税事業者が商品を購入した際、その取引(仕入れ)について仕入税額控除を行うことになりますが、即時充当による消費者還元を受けた場合には、商品対価の合計額が「課税仕入れに係る支払対価の額」となります。
一方、自社ポイントのように、商品等の購入の際のポイント利用が「値引き」となる場合には、「値引後の金額」が「課税仕入れに係る支払対価の額」となります。
(出典:国税庁「事業者の皆様へ~区分経理から消費税申告書の作成まで~」より)
※商品等を購入した事業者においては、レシートの表記から「課税仕入れに係る支払対価の額」を判断して差し支えありません。(即時充当により消費者還元を受けた額相当額は雑収入として計上することとなります。)
2019/11/15
災害に関する税務上の取り扱い
近年、日本各地において災害が頻繁に起きており、最近では九州北部豪雨や台風15号、台風19号と立て続けに起きている状況です。そこで今回は災害に関して法人や個人が支出する費用のうち、支援に関するものに対する税務上の取り扱い等についてお話しさせていただきます。
1.従業員に対する災害見舞金等
法人が、災害により被害を受けた従業員又はその親族等に対して一定の基準に従って支給する災害見舞金品は、福利厚生費として損金の額に算入されます。また、法人が、自己の従業員等と同等の事情にある専属下請先の従業員等又はその親族等に対して一定の基準に従って支給するものについても、同様に損金の額に算入されます。
既に退職した従業員又は採用内定者に対して従業員と同一の基準で支給した災害見舞金品についても、被災した自己の従業員等と同一の基準に従って支給するものは、福利厚生費として損金の額に算入されます。
なお、事業を営む個人においても同様に取り扱われます。
※一定の基準とは、①被災した全従業員に対して被災した程度に応じて支給されるものであるなど、各被災者に対する支給が合理的な基準によっていること、②その金額もその支給を受ける者の社会的地位等に照らし被災に対する見舞金として社会通念上相当であることが必要です。
2.取引先に対する災害見舞金等
法人が、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程においてその取引先に対して行った災害見舞金の支出、事業用資産の供与等のために要した費用は、交際費等に該当しないものとして損金の額に算入されます。
3.取引先に対する売掛金等の免除等
法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金、貸付金等の債権を免除する場合には、その免除することによる損失は寄附金又は交際費以外の費用として損金の額に算入されます。また、既契約のリース料、貸付利息、割賦代金の減免を行う場合及び災害発生後の取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様に取り扱われます。
4.取引先に対する低利又は無利息による融資
法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として低利又は無利息による融資を行った場合における通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額は、寄附金に該当しないものとされます。
5.自社製品等の被災者に対する提供
法人が、不特定又は、多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用は、寄附金又は交際費等に該当しないもの(広告宣伝費に準ずるもの)として損金の額に算入されます。
6.災害対策本部等に対して義援金を支払った場合
法人が、被災地の県下の災害対策本部に対して支払った義援金は、「国等に対する寄付金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。
個人の場合は、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
なお、当該義援金は地方公共団体に対する寄附金としてふるさと納税に該当するため、個人住民税の寄附金税額控除の対象になります。
※ふるさと納税のポータルサイトからも災害支援寄付を行うことができます。サイトによっては寄附できる自治体が限られている場合もありますが、手続き方法は通常のふるさと納税の場合と同じです。